各大学が持っている各「学部」は、そこで得た学びが学生の最終進路となる「就職活動」の「有利/不利」を分けるものとして見られています。
この「有利/不利」、文理系それぞれに学部を分けた後にこの学部は就職活動が有利となる学びを得られる反面、逆にこっちの学部は就職活動では「不利」になる側面を持っているとして振り分けられます。
その中でも、理系に属する学部でひと際「不利」であるといわれている学部があります。
それが「理学部」です。
しかし、就職率などのデータを参照したとしても「理学部」出身の学生の多くが、「IT業界」や「金融・保険業界」、さらには「教育業界」で活躍しています。
ではなぜ「理学部は就職活動では不利」と言われているのか。
今回は、その「不利」と言われる「理由」を解説すると同時に、理学部がどんな学部でどんなことを学んでいるのか、そして将来はどんなところに就いているのかをご紹介します。
理学部の基本情報
「理学部」で学ぶ「理学」の根底は、世の中にある様々な現象の仕組みを分析して、それを実験、研究して解き明かしていく学問です。
高校で学ぶ数学や物理・化学などの理系科目をより深く掘り下げて発展させたものです。
よく「理学部」の比較として「工学部」が用いられます。
あちらは「既存理論を土台として、社会に役立つ技術を開発する学問」です。
一方で「理学部」は「抽象的な段階にある道理を、理論的に解明して研究する学問」です。また双方の考えを重んじる「理工学部」と呼ばれる学部があります。
「理学部」では以下の学科を有しています。
【数学科】
「数学科」では、「数学」を学ぶうえでの要となる「解析」「代数」「幾何」「統計」に沿って講義・演習が進むと同時に「数学的思考」と「情報技術」を学びます。
ここで学ぶ数学の内容の多くが「抽象的」なものであるため、高校で学ぶ数学とは一味違ったものとなります。あくまで「計算」をするというよりも、「なぜそうなるのか」というような「定理」や「理論」を中心に学んでいきます。
よっては、大学で学ぶ数学は、現存する原理を「定理化」して汎用性を学ぶものです。
【物理学科】
「物理学科」では、「基礎物理学」から「理論物理学」など、「物理」分野に属する学術領域を学びます。
具体的には、素粒子や物性物理学、宇宙など自然界における仕組みの研究をしていきます。しかし、あまりにも分野の領域幅が広すぎるため、各種専攻分野に分けて学習に取り組んでいきます。
【化学科】
「化学科」では、物質構造やその性質、化学反応などを学んでいきますが、その中心には「有機化学」「無機化学」「物理化学」の3柱があります。加えて派生として「分析工学」や「生化学」「化学工学」など、多彩な専門分野に振り分けられます。
とはいえ、いずれの分野も高校化学の「基礎内容」から土台を固めていき、実験を通して理論と技術を学んでいきます。
また「化学科」は新素材の開発や環境問題への取り組みも行っています。
そのほかにも「生物学科」や「地質学科」などがあります。
理学部生の就職先
IT業界
まずは「IT業界」です。
「理工学部」、特に「数学科」や「物理学科」所属の学生が就職先として選択している業界です。
これらの学科では「プログラミング」はもちろんのこと、「数学的知見」や「統計学」の知識を積んでいるということから「ビックデータ解析」や「データサイエンティスト」などを活用、導入している現場で大きく活躍できます。
特に「ビッグデータ解析」は、各種業界大手企業や鉄道会社などが取り組んでいるため、今後需要あるものとして注目がされています。
また「IT・IoT化」が各製品に取り入れられていく中で、「アルゴリズム」開発者ができる人材にも注目が集まっています。
ここでいう「アルゴリズム」とは、検索エンジンのことではなく、自動運転や顔認証・画像処理などを機械側が行ってくれる技術を言います。
この技術には、「論理的思考」や「分析力」を必要とします。理学生ではこの2つの能力を持ち合わせている学生が多く在籍していることから、需要のある仕事でもあります。
各種メーカー業界
次に各種「メーカー業界」です。
「メーカー業界」も様々あります。たとえば、「化学科」出身の学生は化学製品を取り扱うメーカー、化粧品メーカーなど、「物理学科」出身の学生であれば、半導体メーカーや電子メーカーなど、「生物学科」出身の学生なら製薬会社など、自分が専攻していた学術領域が活かせる業界・職種に就くことができます。
金融・保険業界
次に「金融・保険業界」です。
「理学部」に属するすべての学科では、分析と実験を繰り返すことで得られたデータを根拠にして「論理的」に分析をして研究成果を出すことを基本スタイルとしています。
これはこと「金融・保険業界」でも同じことが言えます。
たとえば「保険業界」に就いた場合、客観的データを基として新商品を企画し、サービスとして売り出す「アクチュアリー」として活躍ができます。
また「金融業界」ではあれば、数学・物理学に基づいて投資や金融商品の開発を行う「クオンツ」として活躍ができます。
いずれも、「数値」という根拠あるものを取り扱っていくため、「金融・保険業界」での活躍が望めます。また「分析力」「統計力」といった能力を多用する場面があります。
教育機関
次に「教育機関」です。
「理学部」では、「数学」「物理」「化学」「生物」など「理系科目」に属する科目を取り扱える「教員免許」の取得ができます。
どの科目も大学在籍中に学んだことをまんま活かすことができるので、就職先の1つとして「教員免許」取得を目指す学生がいます。
また「教育機関」といっても様々あります。
文部科学省管轄の「学校教育機関」、中学校や高校教師として活躍するパターンと、学習塾や個別指導塾、家庭教師など一般企業に勤めるパターンがあります。
いずれも「教育」ということに変わりはありません。
研究開発職
最後に「研究開発職」です。
「研究開発職」とは、前述した「メーカー業界」に位置付くものであり、主に新製品の開発や既存商品の安全性から耐久性などを確認する業務を取り仕切るうえで「専門家」として監修を行って、ともにこれらの業務に取り組みます。
在学中得られる資格
「理学部」所属の学生が得られる資格は、所属の「学科」によって異なります。
まずは「理学部」に所属することで得られる資格です。
- 教員免許
- 測量士補
- 学芸員資格
- 司書資格
の4種類があります。
いずれも特定の資格を得た目に必要な講義を受講して、単位取得などの条件を満たしておく必要があります。
また以下は、「理学部」を卒業することで受験資格が得られるものです。
- 衛生工学衛生管理者
- 甲種危険物取扱者
- 設備士(空気調和・衛生工学会)
- 東京都公害防止管理者(一種)
などがあります。
資格取得で就職活動が有利になることはそうありませんが、業界や職種によっては高い評価を得るばかりか今後の活躍次第で大きな力を発揮してくれます。
また一部業界によっては、これら免許・資格がないと扱えないものもありますのでご注意ください。
理学部は就職に不利と言われている理由
学びの多くが「研究」で、仕事と結びつけるのが難しい
ここまで「理学部」所属の学生が就いている就職先についてご紹介しました。
これだけのことを踏まえて言うと、「理学生の就職活動って不利じゃない」といえます。
しかし、その実で「不利」と言われるものがあります。
それが、「理学部で取り扱うモノの多くが研究内容であり、実用性としての利用が難しいこと」や「研究内容が仕事と結びつきにくいこと」が挙げられます。
今一度言いますが、理学部では「世の中にある自然現象の謎を解明する」学問です。
研究した内容が、社会的に価値があるものかということはありません。ついては企業が求める「市場ニーズ」とマッチすることがないため、「就職活動じゃ不利」と言われています。
就職を有利に進めるためには
前節で「理学生の就職が不利」の理由に触れましたが、現に「理学部」出身の学生は、自分の持ち味を生かした業界・職種に就職をしているので、一概に「不利」と言い切るのは無難でしょう。
ではどうやって「理学生」は「就職活動」をしているのかというと、「専攻は専攻」「就職は就職」と分け隔てて行動をしています。
大学生の多くが「大学で培ったことが活かせる」ことを軸として就活をしていきますが、そのことごとくが活かしきれない業種・職種についています。
それは「理学部」所属の学生も例外ではありません。こだわりが強すぎるし、選択肢の幅が狭まり最悪の場合、就職浪人ということもあります。
実際のところ、会社に入った後で覚えることが多く、大学で得た知識よりも会社に入社して覚えた知識の方が重要視されています。
それでも「専攻で培った知識や技術」を活用していきたいという場合、「研究内容」に固執するのではなく、「研究に取り組むうえで得た能力」が活かせる仕事にシフトして探してみるといいでしょう。
理学部ならではの面接対策
雌雄職活動をしていく中で、多くの学生が「選考面接」の壁にあたって、あえなく散っていく光景がよく見られます。
新卒採用の面接では、以下の点を見定めています。
- 学業への取り組み姿勢
- 学生生活を通してどのようなことを学んできたのか
- 目的意識を持って計画的に行動した経験があるか
これは、全学部を通して共通して言えることです。特に3つ目の「目的意識を持って計画的に行動した経験があるか」を見定めてくる質問が、「なぜその学部を選んだのか」という質問で問われている意図となります。
回答として意識する点は「目的」と「計画」に一貫性を持たせることです。
たとえば、「ITに関わる仕事をしたいと思い、理学部に入学をしました。(以下エピソード)」というように目的をもって行動してきたことを伝えるといいでしょう。
また「学生時代どのような取り組みをして来ました」という質問で、「理系」の学生が意識すべき注意点があります。
それは話の内容を「研究内容」として話すことです。
相手が「理系分野」通じるものを持っているならばいいかもしれませんが、多くの場合「文系出身者」が面接官ということがあります。
専門用語を如何にわかりやすい言葉でかみ砕いて説明したとしても、理解してもらえるかは半々です。
最悪の場合、それで落ちるということもありえます。
「理系」学生の持ち味は「研究」をテーマとして話すのがベストです。ただし話の内容を「研究内容」にして話すのはNGです。
ではどのようなことを話すかというと、「研究に取り組んだ結果、自分がどう成長したのか」を話すといいでしょう。
これは「理学部」に限らず、「工学部」や「医学部」などの理系学部全般に共通して言えます。
淡々と「研究内容」を語るより、「自分がどう成長したか」を語る方が、印象に残りやすいです。
まとめ
以上が、「理学部は就職活動が不利」と言われる「理由」の解説と、理学部がどんな学部でどんなことを学んでいるのか、そして将来はどんなところに就いているのかのご紹介でした。
「就職に不利」と言われている「理学部」ですが、就職活動に対する考え方や取り組み方を変えるだけで、「不利」と言われる状況を「有利」なものへと変えることができます。
また所属学科で得た知識や技術を活かせる場には限りがあります。しかし、学びを得るうえで培った「分析力」や「論理的思考力」などは、社会に出た時大きな力としてその真価を発揮するでしょう。